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退職勧奨を違法と判断した裁判例【会社向け】

2021-10-05

今回は、上司らの退職勧奨が違法であり、不法行為と判断された裁判例を紹介します(宇都宮地裁令和2.10.21)。退職勧奨を行う際には、参考にしてください。

1 事案の概要

バスの乗務員(運転手)である原告が、上司である被告らから退職強要や人格否定等のパワーハラスメントを受けたとして、慰謝料を請求したケースです。

原告は、乗客に対する接客態度に問題があったとして(←複数回あったようです。)、複数の上司から長時間(約1時間)にわたり退職するよう繰り返し迫られ、その後、「うつ状態」となりました。

2 裁判の判断

裁判所は、原告が辞めたくないと述べたにもかかわらず、3日間にわたり、複数の上司らが原告に対し、次のような発言に及んだことは、退職勧奨として許される限度を逸脱したものであり、不法行為が成立すると判断しました(なお、違法な退職勧奨のほか、パワハラもあったとして、慰謝料は60万円と認定されました。)。

① 「もう二度とバスには乗せない。」

  「もう終わりです。」

→ 運転業務がない中で、バスに二度と乗せない旨を表明したこと

② 「その辺のチンピラがやることだよ。チンピラはいらねんだようちは。」

 「雑魚はいらねえんだよ。」

 「まあもう会社ではいらないんです。」

→ 会社には要らない旨を繰り返し告げたこと

③ 「うちの会社には向かねえよこんな会社って、見切りをつけて他の会社行けよ。」

  「どっかへ行けよ。それを言ってんだよ。」

→ 他の会社へ行けと言ったこと

④ 「一身上の都合で円満にあれしたほうがよろしいんじゃないかと。」

  「円満のがいいでしょ?だってその方が、今度ね他へ就職するにしても」

→ 自主退職すべきことをほのめかしたこと

⑤ 「じゃあ、書けよ・・・。書けよ。」

  「退職願を」

→ 退職願を書けと命じたこと

3 本件の特徴

「もう二度とバスには乗せない。」、「チンピラはいらねんだよ。」、「どっかへ行けよ。」、「(退職願を)書けよ。」など、上司らの発言は、原告に退職を促す、あるいは、退職するよう説得するものではなく、退職を強要する内容といわざるを得ません。しかも、本件では、3日間という短期間に、複数の上司が原告一人に対し、上述した発言を繰り返していた点が特徴的です。

また、判決では、上司らの発言が細かく認定されています。これは、原告が発言内容を録音し、それを証拠提出されたことが理由と考えます。

4 まとめ

本件では、原告の接客態度に問題がありました。しかも、過去に同様の問題があったようです。だから、上司らは、原告にはバスを運転させられないと考えて、退職勧奨に及んだと考えます。

もっとも、原告の接客態度は問題があったものの、解雇相当といえるほどの重大なものではなく、そもそも退職を強く勧めることはできないケースであったと考えます。

このようなケースでは、まず、問題行動について懲戒処分(戒告・減給・出勤停止など)を検討します(無理に退職させようとしない。)。そして、その過程で、本人に接客態度に問題があることを自覚させます。そのうえで、退職勧奨する場合には、バス乗務員は接客が不可欠であるため、接客態度が改まらないのであれば、バス乗務員は向いていないのではないか、といった趣旨の発言にとどめるべきであったといえます。

これに対し、本件は、「退職勧奨」といいながら、「どうしても退職させよう」とした結果、言い過ぎてしまい、不法行為と認定されてしまいました。このようなケースは、たまに見られるケースなので、ご注意ください。

なお、本件では、原告が上司らの発言を録音していました。退職勧奨の場面では、このように従業員が担当者の発言を録音しているケースは非常に多くあります。このため、退職勧奨を行う場合には、「従業員に録音されていること」を前提に発言・対応してください。

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会社側からみた労働審判手続の実際【会社向け】

2021-10-04

例えば、解雇問題や残業代請求等で、労働者から労働審判を申し立てられたとします。ほとんどの会社は、労働審判を申し立てられたことがないため、実際に、どのような流れで進むかイメージできないと思います。

今回は、そのような会社の皆様に対し、労働審判が申し立てられた場合の実際の手続等について、ご説明します。

1 労働審判とは

労働審判とは、解雇問題や残業代請求などの労使間のトラブルについて、迅速に解決するための手続です。

次の点が特徴です。

① 裁判の場合、裁判官が審理しますが、労働審判の場合、裁判官(労働審判官)のほか労働審判員2名が手続に関与します(その結果、3名で審理することになります。)。

労働審判員は、裁判官ではなく、企業の人事労務や組合活動に携わっていた等、労働問題に関する知識や経験を有する人が任命されます。これらの人々が関与することで、実情に即した解決を図ろうとする趣旨です。

② 労働審判は、原則として3回以内の期日で審理を終結することになっています。もっとも、ほとんどのケースでは、第1回期日の段階で、裁判所が和解案を提示します。このため、労働審判は「第1回期日が勝負」という側面が非常に強い手続です。

③ 労働審判は、裁判所・申立人・相手方が同じテーブルに座り、手続が進行します。裁判所から当事者への質問が多く、当事者は、これらに回答する必要があります。そこで、当事者(関係者)として参加する場合、いろいろな質問が出てくると覚悟して、労働審判期日に臨む必要があります。

2 労働審判の準備

労働審判の準備は大変です。前述しましたとおり、労働審判は、「第1回期日が勝負」であるため、第1回期日に向けて、しっかりと準備する必要があります。

具体的には、当方に非がない旨の言い分(主張)を整理し、その主張に沿った証拠を提出しなければなりません。しかも、書類等の提出期限は、労働審判の書類が届いてから約1か月後であることが多く、日程もタイトです。そこで、労働審判の申立てがあったら、速やかに準備を進める必要があります。

労働審判は、裁判所が法律に基づいて争点(不当解雇であるか、残業代があるか等)を審理します。このため、会社は、「会社の対応は、法的に問題がなかったこと」について、証拠に基づいた主張を行う必要がありますが、このような準備は、事実上、弁護士でなければ行うことができません。

そこで、労働審判の申立てを受けた場合には、資料(証拠)を集めるとともに、速やかに弁護士を探してください。そして、依頼する弁護士が見つかった場合には、早急に弁護士と打合せを行ってください。このとき、会社側で時系列に沿って整理していると、弁護士もスピーディーに事案を理解することができます。

また、労働審判の場合、当該事案の関係者(同僚や上司など)にも労働審判期日に出頭してもらう必要があります。そこで、弁護士と関係者との打合せの日程も確保してください(通常は、事実関係の聴取は何度か行うことになります。)。

3 労働審判期日

事前に主張書面や証拠を提出していても、労働審判期日には、裁判所から事実関係に関する質問があります。そこで、労働審判期日には、関係者も必ず同席してください。関係者が同席しない場合には、申立人側の「言いたい放題」になってしまう危険があるので、ご注意ください。

審判期日は、おおむね2時間を予定してください(なお、和解成立の見込みがある場合には、延長する可能性もあります。)。当日は、裁判所の質問が1~1.5時間くらいあります。そして、質問が一通り終わった時点で、和解に向けた話し合いに移行します。

和解に向けた話し合いでは、申立人と相手方は別々に話を聞かれることになります。このとき、裁判所から、心証が開示されるとともに和解案が提示されます。

労働審判の場合、第1回期日で和解が成立するケースが多くあるため、当日、決裁権者が同行できない場合には、連絡がとれるようにしておいてください。

4 最後に

労働審判手続の実際をご説明しました。繰り返しとなりますが、この手続は、「第1回期日が勝負」です。このため、裁判所から労働審判に関する書類が届いたら、速やかに弁護士に相談し、委任することが重要です。

労働審判を申し立てられてお困りの企業様は、弁護士加藤大喜までご相談ください。

 → お問い合わせは、こちらまで(お問い合わせ画面に移動します)

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会社が解雇通告する前に検討すべきこと(解雇に潜むリスク)【会社向け】

2021-10-03

「問題社員を何とかしたい。」と考えた場合。

問題社員に注意・指導を繰り返しても改善しないため、解雇することを考えたとします。

「問題行動や注意・指導に関する証拠は集まった。あとは、解雇するだけ。」このような状況であっても、解雇を通告する前に、まずは「退職勧奨」するのがよいと考えます。今回は、「解雇」に潜むリスクについて、ご説明います。

解雇に関する証拠の収集

① 問題行動を繰り返す社員に対し、注意・指導を繰り返す。

② その際、業務命令書や注意指導書を発行し、場合によっては懲戒処分を行うなど、注意指導に関する資料(証拠)を残しておく。

解雇権を行使するにあたり、会社による解雇が有効であることを裏付ける証拠を積み上げておくことは重要です。

これらが十分に集まっていない状態で解雇すると、裁判で争われた場合、解雇無効と判断されるリスクが非常に高くなります。

解雇に潜むリスク

それでは、解雇に関する証拠が積み上がった場合、解雇権を行使しても全く問題ないでしょうか。

この点については、解雇に潜む次のリスクから、やはり解雇権行使には慎重であるべきと考えます。

裁判所が判断するリスク

会社による解雇が有効であるかについて、裁判で争われた場合、解雇の有効性は裁判所が判断することになります。実は、裁判所が解雇の有効性を判断することは、それ自体、非常に大きなリスクといえます。

裁判所は、法律に基づいて、解雇の有効性を判断します。そして、その法律(労働契約法16条)は、解雇の要件として、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当であること」を要求しています。

しかし、これらの要件は曖昧であり、どのような場合に、「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当である」といえるか判然としません。すなわち、判断する人によって、結論は変わり得るのです(例えば、解雇の有効性については、地方裁判所と高等裁判所で判断が異なるケースは、少なからずあります。)。

このため、会社が証拠十分と判断して解雇しても、裁判で争われた場合には、解雇無効と判断されるリスクは常にあります。

無用な紛争に巻き込まれるリスク

解雇の場合には、解雇が無効であったとの理由で、社員から訴訟提起されるリスクは非常に高くなります。

この場合、会社は、その訴訟に対応せざるを得ず、時間とお金(弁護士費用)を費やすこととなります。しかも、事案によっては、その社員が所属していた部署の別の社員に協力してもらう必要があり、会社の機会損失は大きいといえます。

退職勧奨を検討することの重要性

これらのリスクを考慮すると、解雇権を行使する前に、退職勧奨することがよいと考えます。

退職勧奨に応じてもらい、当該社員から退職届を提出してもらえれば、「解雇」ではなく「自主退職」となります。「自主退職」で処理できた場合には、「解雇」の場合より、後日、社員側から訴えられる可能性は低くなるといえます。しかも、裁判となった場合でも、「解雇」よりも「自主退職」の方が、有効性の立証に関する会社側の負担は少ないといえます。

さらに、問題社員が退職勧奨に応じず、会社が解雇せざるを得なかった場合であっても、このような手続を踏んだ点は、裁判となった場合には、会社側に有利な事情として考慮されると考えます。

以上の理由から、問題行動を繰り返す社員であっても、解雇を通告する前に、退職勧奨を行うのがよいといえます。

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問題社員の解雇を検討する際に注意すべきこと【会社向け】

2021-09-30

「問題社員を何とかしたい。」というご相談を多数受けます。例えば、「問題社員をどのように注意すればよいか。」や「問題社員に辞めて欲しい。」など。今回は、問題社員の解雇を検討する際の法的注意点について、ご説明します。

1 よくある相談例

よくある相談例として、「問題社員に辞めて欲しいと考えているが、どのように対応すればよいか。」というものがあります。これまでに、どのような注意指導を行ってきたかを確認してみると、「これまでは穏便に済ませようと思い、口頭で注意したくらいです。」という回答が結構あります。

2 「退職」と「解雇」の違い

問題社員に辞めてもらう方法として、「退職」と「解雇」があります。

このうち、「退職」は、「従業員が自発的に会社を辞めること」なので、強制的に「退職」させることはできません。問題社員に退職してもらうために、会社としてできることは、「退職勧奨すること」くらいです。

これに対し、「解雇」とは、会社が従業員に対し、一方的に労働契約の終了を通告する行為です(←「クビ」のことです。)。このため、会社としては、問題社員が「退職」しない場合には、「解雇」できないかを考えます。

3 解雇権濫用の法理

しかし、ご承知のとおり、日本では、会社は従業員を自由に解雇することはできません。法律上、解雇権の行使には厳しい要件が課されています(解雇権濫用の法理:労働契約法16条)。すなわち、「解雇」とは、会社員としての「死刑判決」にほかならないので、「会社が注意指導を繰り返しても改善しなかった。」(もはや解雇以外に採りうる方法がなかった。)といえる状況が必要です。

4 裁判の特徴(特殊性)

会社が解雇すれば、解雇された従業員は、かなりの可能性で解雇無効の訴訟を提起します。裁判の世界では、「客観的証拠」(=書面)が全てです。このため、「口頭注意」のみの場合、従業員側が「注意など受けていなかった。」と否定すれば、裁判所に「会社による注意・指導があったとはいえない。」と判断されてしまい、会社が敗訴する可能性は高いといえます(仮に、退職前提の和解ができたとしても、高額の解決金を支払うことが要求されるでしょう。)。

5 冒頭の相談に対する回答

以上を前提に、冒頭の相談事例をみると、それまで問題行動に対し、「口頭注意」しか行ってこなかったとのことです。このため、会社が解雇を断行し、従業員が解雇無効の訴訟を提起した場合には、会社は、注意指導の事実を証明できず、その結果、敗訴する(=解雇無効)可能性が高いと予想します。

このため、冒頭の相談に対する回答としては、「この時点での解雇はリスクが高いので、やめた方がよい。」となります。

6 冒頭の相談に対するアドバイス

それでは、冒頭の相談事例では、どのように対応すればよいでしょうか。

まず、大前提として、このケースでは、ただちに解雇することはできないと考えてください。

そのうえで、「問題行動に対し、会社が注意指導したこと」を証拠化し(業務命令書や注意指導書の発行、懲戒処分など)、それを積み上げてもらいます。これらは、「会社が注意指導を繰り返しても改善しなかったこと」の証拠となります。

これらを繰り返しても、問題行動が改まらなかったときに、はじめて「解雇」を検討することになります(ただし、証拠が積み重なった時点でも、無用な訴訟に巻き込まれることを防ぐため、まずは「退職勧奨」するのがよいと考えます。)。

7 注意点

なお、上述した注意指導は、恣意的なものとならないようにしてください。例えば、他の従業員が同じミスをしても注意しないのに、その従業員のときだけ処分することは、会社側の対応が恣意的であり、問題があると言われてしまう危険があります。注意指導は公正・公平が大切です。

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労災上乗せ保険加入のすすめ【会社向け】

2021-09-27

会社が安全配慮義務を怠った結果、労災事故が発生した場合には、会社は被災者の損害を賠償しなければならないこととなります。今回は、そのような事態に備えて、労災上乗せ保険(使用者賠償責任保険など)に加入することの必要性について、ご説明します。

1 賠償額の高額化傾向

労災事故が発生した場合には、治療費のほか、休業損害、慰謝料、その他損害(通院交通費など)が損害として発生します。さらに、被災者に後遺障害が残ってしまった場合には、後遺障害に関する損害(逸失利益、後遺障害慰謝料)も損害賠償の対象となります。

特に、後遺障害に関する損害は、将来にわたる損害を補償する性質のものであることから、その損害額は高額となります。具体的には、後遺障害が認定されると、損害額は合計1000万円以上となり、高位の後遺障害が認定された場合には、賠償額が数千万円単位にのぼることもあります。

2 労災保険給付は損害の全部をカバーしないこと

以前にお話しましたとおり、労災保険給付は、被災者の損害の全部をカバーするわけではありません(労災事故における損害賠償リスク【会社向け】)。このため、「労災事故が起こっても、労災保険に加入しているから大丈夫だ。」ということにはなりません。上述しましたとおり、たとえ労災保険給付が支払われたとしても、会社は、1000万円以上(場合によっては、数千万円単位)の自己負担を余儀なくされる場合も十分に考えられるのです。

3 裁判となった場合の問題点

さらに、被災者から、損害賠償金の支払いを求めて訴えられた場合には、事態はさらに深刻となる可能性があります。すなわち、裁判で和解が不調となり、判決となった場合、会社は、上述した単位の賠償金を支払うよう命じられる危険があります。しかも、判決の場合、賠償金を一括して支払うよう命じられるのですが、これを支払うことができない場合には、強制執行を受けることになります。

そして、強制執行では、預金や売掛金を差し押さえられてしまうため、これらを別の支払いに充てることができません。さらに、預金や売掛金が差し押さえられた場合には、銀行からは借入金の一括返済を請求されるリスク、取引先からは信用不安を理由とする契約解除のリスクがあります。最悪の場合、会社は倒産する危険すらあります。

4 まとめ

以上のとおり、労災事故が発生した場合には、会社経営が非常に大きなダメージを受ける危険があります(実際に、労災事故の補償を余儀なくされた結果、資金繰り等の面で、深刻な影響を受けた会社は多数あります。)。このようなリスクを回避・軽減するためには、使用者賠償責任保険など、いわゆる労災上乗せ保険に加入することが有益です。

もし、加入していないのであれば、労災事故リスクの軽減を図るためにも、加入なさることを強くお勧めします(なお、保険の種類や補償内容については、保険会社にお問い合わせください。)。 このようなリスクに備えておくことも、「予防法務」の一環として、とても大切です。

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2021-09-25

労災事故が発生した場合、会社は、どのように初動対応する必要があるでしょうか。今回は、労災事故の初動対応における専門家の活用について、ご説明します。

1 労災事故発生後に相談すべき専門家とは

労災事故が発生した場合、弁護士や社会保険労務士(社労士)に相談することが多いかと思います。すなわち、労災事故が発生した場合には、労災保険の申請手続や被災者に対する補償問題など、会社が対応しなければならない事項は多岐にわたります。そして、これらについて、専門家に相談することが考えられます。

2 社労士・弁護士の得意分野

社労士は、労災申請書類作成の専門家です。被災者のため、スピーディーに対応するためには、社労士に手続を依頼するのがよいでしょう。労災事故が発生した場合、労基署の調査に対応する必要がありますが、労基署対応も、弁護士より社労士の方が取扱件数が多いのではないでしょうか。

さらに、最近では、長時間労働によってメンタル不調に陥ったとして、労災申請を希望する労働者もいます。この場合、会社は、被災者の労働時間を調査する必要がありますが、社労士は、労働時間の計算も得意だと思います。

弁護士は、裁判を多く取り扱っていることから、事実調査や賠償問題などに強いといえます。例えば、パワハラを原因とする労災の主張があったとします。この場合、会社は、パワハラ行為の有無を調査しなければならないところ、具体的には、関係者から事実関係を聴取し、申告内容が真実であるか否かを調査することになります。このような調査は、聴取内容と客観的証拠との整合性を確認する等の検証が必要となりますが、これは弁護士の得意分野です。

さらに、被災者から損害賠償請求を受けた場合には、会社は、被災者と示談交渉(交渉不調の場合には裁判)しなければならないのですが、示談交渉・訴訟手続は、弁護士でなければ代理することができません。

3 まとめ

労災事故が発生した場合には、会社が対応しなければならない事項は多岐にわたります。そして、社労士と弁護士には、それぞれの専門分野・得意分野があります。このため、会社は、各局面において、相談・依頼する専門家の使い分けを行うのがよいでしょう(なお、労災事故が発生した当初の段階から、弁護士と社労士が協力・連携できる体制を整えられれば、よりよいでしょう。)。

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2021-09-24

労災事故が発生した場合、会社は、どのように初動対応する必要があるでしょうか。今回は、労災事故が発生して間もない時期における会社の対応について、ご説明します。

1 労働者死傷病報告の提出

労災事故が発生し、労働者が死亡または休業を余儀なくされた場合には、労働基準監督署に対し、労働者死傷病報告を提出してください。なお、労災申請書類(療養費や休業補償に関する申請書類)と労働者死傷病報告は別の書類です。

このため会社は、労災申請書類に事業主証明を行ったとしても、それとは別に、労働者死傷病報告を提出する必要があります。

2 事故原因の調査

次に、労災事故が発生した原因をしっかりと調査してください。仮に、安全管理体制に不十分な点があるとすれば、ただちに改善するとともに、社員教育を徹底してください。これらは、会社の労働者に対する安全配慮義務の一環として行うべき事項です。

ちなみに、労災事故が発生した場合には、労働基準監督署による調査のほか、取引先(大口取引先)から、事故原因及び再発防止策に関する報告を要求されることがあります。これらを準備する意味においても、事故原因の調査・現場の改善・社員教育は不可欠です。

3 被災者に対する見舞金等の支給

被災労働者が労災保険給付の申請を行ったとしても、労働基準監督署による調査等があるため、ただちに労災保険金が支払われるわけではありません。例えば、死亡事故が発生した場合には、労災保険金が支払われるまでの間、ご遺族の生活面をケアする必要があります。このような場合には、見舞金(慰謝料の内金)などの名目で、当面の生活費を支払う等の措置を講ずることを検討してください。

4 まとめ

労災事故が発生した直後は、事故原因の調査を行うとともに、被災者(ご遺族)のケアに努めてください。事故直後の会社側に対応に問題があったため、深刻な紛争に発展してしまった例は多数あります。

まずは被災者の不安を取り除く。落ち着いたら、過失相殺の問題などを協議する。このようなスタンスで臨むことが、労災事故を円満に解決するためのコツです。

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2021-09-23

労災事故の対応でお困りの企業様は、加藤労務法律事務所までご相談ください。
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労災事故が発生した場合、会社が事故防止措置を講じていなければ、会社は被災した労働者に対し、損害賠償義務を負うこととなります(事故防止措置が不十分であった場合も含む。)。

それでは、事故の原因が労働者側にもあった場合、労働者の全ての損害について、会社は賠償責任を負うことになるのでしょうか。今回は、労災事故における労働者の過失(過失相殺)についてご説明します。

1 過失相殺

例えば、構内事故で被災者が安全具を付けていなかった結果、労災事故に遭った場合、その事故は、会社の責任(安全教育の不徹底)と労働者の責任(安全具の不着用)が競合した結果、発生したことになります。この場合、労災事故によって発生した労働者の損害について、その責任の全てが会社にあるとはいえません。他方で、その責任の全てが被災した労働者側にあるともいえません。

このように、労災事故の原因が会社と労働者の双方にあるといえる場合には、その責任を会社と労働者の双方に案分することになります。これを、「過失相殺」といいます。例えば、事故状況から、労働者の過失が30パーセントと認められる場合には、その損害のうち30パーセント分については、会社の請求できないこととなります。つまり、会社は、労働者の過失分については損害賠償義務を免れることとなるのです。

2 過失割合の算定方法

それでは、過失割合は、どのように算定されるのでしょうか。この点については、決まった数式等が存在するわけではありません。すなわち、過失割合は、事故状況、事故原因、会社側の義務違反の内容、労働者の不注意の内容等を総合して判断されることになります。

非常に曖昧かつ抽象的な表現となってしまいますが、損害賠償の実務では、労災事故が発生した場合には、これらの事情を精査して、労働者と協議して、過失割合を決定(合意)することになります(なお、労災事故の場合には、事案にもよりますが、労働者側の過失割合は20~30パーセントとなるケースが多いというのが私の個人的感覚です。)。

3 まとめ

損害額の計算は、実務上、確立された計算式があります。これに対し、過失割合については、そのような計算式がありません。そこで、過失割合は、労働者と協議して決めることとなります。

この場合、会社は、労働者に対し、説得力のある提案を行う必要がありますが、そのためには、事故状況、事故原因、会社側の義務違反の内容、労働者の不注意の内容等を精査する必要があります。

そして、これらの情報に基づいて、労働者の過失割合を検討することになるところ、何パーセントが妥当であるかは、過去の裁判例などを参考に決める必要があります。

過失割合の検討については、裁判例の分析・検討が必要となるため、弁護士などの専門家に相談するのがよいといえます。

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2021-09-22

労災事故が発生して従業員が負傷した。無事に労災保険と認定されて、被災者(怪我した従業員)に労災保険金が支払われた。これで補償問題は全て解決したと思っていませんか?

今回は、労災事故における損害賠償リスクをご説明します。

1 労災保険給付

労災保険とは、簡単に言えば、被災労働者に対する簡易迅速な補償制度をいいます。例えば、業務上あるいは通勤途中に労働者が怪我をした、あるいは仕事が原因で病気になった場合など、業務や通勤に起因する怪我や病気等に対する補償です。

ここで注意していただきたいのは、労災保険は、被災した労働者の損害全部を補償するわけではないことです。例えば、怪我をした場合、治療費や休業損害のほか、慰謝料(精神的苦痛に対する補償)も発生します。ところが、労災保険では、慰謝料は労災保険給付の対象ではありません。このため、労災保険給付を受けたとしても、慰謝料は全く支払われていないことになります。

また、休業損害に関する労災給付(休業補償給付)も、被災者の休業損害の100パーセントを支払うわけではありません。このため、休業補償給付が支払われた場合であっても、休業損害は一部残っていることとなります。

さらに、後遺障害が残ってしまった場合には、労災保険(障害補償給付)によって後遺障害に関する損害(逸失利益)が補償されます。しかし、障害補償給付も、後遺障害に関する損害の全部を補償するわけではありません。

このように、労災保険給付が支払われたとしても、被災労働者の損害の全部が補償されるわけではないのです。

2 会社に対する損害賠償

労災保険給付が支払われたからといって、被災労働者の損害の全部が補償されることにはなりません。つまり、被災労働者には、労災保険給付を受けても、まだ損害が残っていることになります。

それでは、この不足分は、どのようになるのでしょうか?

被災労働者としては、この不足分についても、何らかの補償を受けたいと考えます。そして、怪我の原因となった労災事故が発生したことにつき、会社に責任が認められる場合には、会社に対し、損害賠償請求することになります。

会社としては、「労災保険が支払われるはずだ。」と反論したいところです。しかし、上述しましたとおり、労災保険給付では、損害の全部を補償しているわけではありません。このため、労災保険給付が支払われたからといって、労災事故に関する責任が会社にある以上、不足分について、会社は損害賠償義務を負うこととなってしまいます。

3 まとめ

労災事故が発生した場合には、労災保険給付だけにとどまらず、会社が損害賠償義務を負うリスクがあります。このため、会社としては、日ごろから事故防止措置に努めることはもちろんのこと、労災事故の申請があった場合には、このような損害賠償請求のリスクに備えて、事故に至る経緯や事故原因等の調査を尽くすことが肝要です。

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2021-09-21

退職勧奨を行うにあたり、対象者(部下・従業員)から「違法な退職勧奨」と主張されることがあります。そこで、今回は、どのような退職勧奨が違法と考えられるかをご説明します。

1 解雇事由がないのに、解雇すると言うこと

解雇事由がないことを認識しながら、退職勧奨に応じなければ解雇すると言うことは、部下・従業員をだまして退職させようとするものであり、違法と考えられます。

仮に、このような退職勧奨の結果、部下・従業員が退職した場合には、後日、退職の意思表示が錯誤であった、会社の虚偽説明によって退職の意思表示に及んだとの理由で、退職は無効であると主張される可能性が高いといえます。

解雇事由がないにもかかわらず、不用意に解雇する等の発言は行わないようにしてください。

2 人格否定・名誉棄損的発言や恫喝的な対応

「あなたみたいなダメ人間はいりません。早く辞めてください。」、「レベルが低すぎるので、退職したらどうですか。」など、部下・従業員の人格を否定するような発言は行ったらダメです。また、大声で怒鳴ったり、机を叩きながら退職するよう求めるなど、退職勧奨の際、恫喝するような対応に及ぶこともダメです。

これらの行為は、もはや説得行為とはいえません。このようなやり方での退職勧奨も違法と判断されると考えます。なお、このような行為に及んだ場合には、後日、部下・従業員から、退職勧奨の際に精神的苦痛を受けたとして慰謝料請求を受ける可能性も高くなります。

3 長時間にわたる退職勧奨

長時間の退職勧奨も、後日、「長時間にわたって退職を執拗に求められた」と主張される可能性があります。違法と判断されるか否かは、時間や頻度にもよりますが、このような主張を受けないようにするには、1回あたりの面談時間は1時間(長くても2時間程度)とすべきです。

なお、退職勧奨の際には、会社側が一方的に話すのではなく、部下・従業員の話を聞きながら進めてください。部下・従業員の話を聞きながら進めた結果、1回あたりの面談が2時間になったとしても、長時間とはいえないと考えます。

交渉が長時間となりそうな場合や膠着状態に陥った場合には、双方で検討・準備すべき事項を確認し、次回の面談を設定することもご検討ください。

4 連日にわたる退職勧奨

あと少しで合意できそうであれば、前回の面談日から近接した時期に面談日を設定することも考えられます。しかし、そうでない場合に連日にわたって面談を繰り返すことは、「連日にわたり、退職を執拗に求められた」として、違法と主張される可能性があります。

5 多数で面談に臨むこと

会社担当者が多数で面談に臨んだ場合、違法とまではいわないものの、後日、部下・従業員から「大勢に囲まれて、退職することを余儀なくされた」と主張される可能性があります。

なお、1対1の場合、「言った・言わない」の水掛け論に陥る危険があること、その他の事態に備えて、会社担当者は2名程度とするのがよいといえます。

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