退職勧奨を違法と判断した裁判例【会社向け】

今回は、上司らの退職勧奨が違法であり、不法行為と判断された裁判例を紹介します(宇都宮地裁令和2.10.21)。退職勧奨を行う際には、参考にしてください。

1 事案の概要

バスの乗務員(運転手)である原告が、上司である被告らから退職強要や人格否定等のパワーハラスメントを受けたとして、慰謝料を請求したケースです。

原告は、乗客に対する接客態度に問題があったとして(←複数回あったようです。)、複数の上司から長時間(約1時間)にわたり退職するよう繰り返し迫られ、その後、「うつ状態」となりました。

2 裁判の判断

裁判所は、原告が辞めたくないと述べたにもかかわらず、3日間にわたり、複数の上司らが原告に対し、次のような発言に及んだことは、退職勧奨として許される限度を逸脱したものであり、不法行為が成立すると判断しました(なお、違法な退職勧奨のほか、パワハラもあったとして、慰謝料は60万円と認定されました。)。

① 「もう二度とバスには乗せない。」

  「もう終わりです。」

→ 運転業務がない中で、バスに二度と乗せない旨を表明したこと

② 「その辺のチンピラがやることだよ。チンピラはいらねんだようちは。」

 「雑魚はいらねえんだよ。」

 「まあもう会社ではいらないんです。」

→ 会社には要らない旨を繰り返し告げたこと

③ 「うちの会社には向かねえよこんな会社って、見切りをつけて他の会社行けよ。」

  「どっかへ行けよ。それを言ってんだよ。」

→ 他の会社へ行けと言ったこと

④ 「一身上の都合で円満にあれしたほうがよろしいんじゃないかと。」

  「円満のがいいでしょ?だってその方が、今度ね他へ就職するにしても」

→ 自主退職すべきことをほのめかしたこと

⑤ 「じゃあ、書けよ・・・。書けよ。」

  「退職願を」

→ 退職願を書けと命じたこと

3 本件の特徴

「もう二度とバスには乗せない。」、「チンピラはいらねんだよ。」、「どっかへ行けよ。」、「(退職願を)書けよ。」など、上司らの発言は、原告に退職を促す、あるいは、退職するよう説得するものではなく、退職を強要する内容といわざるを得ません。しかも、本件では、3日間という短期間に、複数の上司が原告一人に対し、上述した発言を繰り返していた点が特徴的です。

また、判決では、上司らの発言が細かく認定されています。これは、原告が発言内容を録音し、それを証拠提出されたことが理由と考えます。

4 まとめ

本件では、原告の接客態度に問題がありました。しかも、過去に同様の問題があったようです。だから、上司らは、原告にはバスを運転させられないと考えて、退職勧奨に及んだと考えます。

もっとも、原告の接客態度は問題があったものの、解雇相当といえるほどの重大なものではなく、そもそも退職を強く勧めることはできないケースであったと考えます。

このようなケースでは、まず、問題行動について懲戒処分(戒告・減給・出勤停止など)を検討します(無理に退職させようとしない。)。そして、その過程で、本人に接客態度に問題があることを自覚させます。そのうえで、退職勧奨する場合には、バス乗務員は接客が不可欠であるため、接客態度が改まらないのであれば、バス乗務員は向いていないのではないか、といった趣旨の発言にとどめるべきであったといえます。

これに対し、本件は、「退職勧奨」といいながら、「どうしても退職させよう」とした結果、言い過ぎてしまい、不法行為と認定されてしまいました。このようなケースは、たまに見られるケースなので、ご注意ください。

なお、本件では、原告が上司らの発言を録音していました。退職勧奨の場面では、このように従業員が担当者の発言を録音しているケースは非常に多くあります。このため、退職勧奨を行う場合には、「従業員に録音されていること」を前提に発言・対応してください。

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