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懲戒処分で問題となる「弁明の機会」について

2023-03-28

懲戒処分の有効性が争われる裁判(労働審判)で、労働者側から「弁明の機会がないまま懲戒処分を受けた。このような懲戒処分は無効である。」と主張されるケースは多くあります。今回は、弁明の機会の付与について、実務上の注意点を説明します。

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弁明の機会とは

そもそも「弁明の機会」とは、いったい何でしょうか?

いつ、何を行えば、「弁明の機会を与えた」といえるのでしょうか?

弁明の機会とは何であるか?

「弁明の機会」とは、懲戒処分に先立ち、対象者(社員本人)から、問題行動に及んだ理由・動機、問題行動を起こしたことに対する現時点での考え(反省など)を聞く機会を設けることです。
簡単にいえば、「問題を起こした本人の言い分を聞く。」ということです。
会社は、対象者の言い分も聞いた上で、①懲戒処分を行うか否か、②(処分するとして)どのような懲戒処分とするかを判断します。

弁明の機会を与える理由は?

どうして弁明の機会を与える必要があるのでしょうか?

これは、懲戒処分の性質にかかわってきます。すなわち、懲戒処分とは、企業秩序を維持するための制裁罰と言われています。実社会における刑罰のようなものです。このような懲戒処分の性質上、その処分内容には相当性が要求されます(労働契約法15条)。

労働契約法15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

会社は、懲戒処分が「社会通念上相当である」というために、問題行動の内容(行為態様、結果の重大性、反復継続性など)のほか、行為に至った動機や反省の有無など、問題行動をめぐる様々な事情を総合した上で、懲戒処分を決定しています。そして、「弁明の機会を通じて明らかとなった本人の言い分も考慮して処分内容を決定すること」は、懲戒処分の相当性を裏付ける事情の一つとなります。

弁明の機会を与える「もう一つの理由」

実務では、対象者に弁明の機会を与え、その言い分を聞くことは、「ガス抜き」としての性質もあります。対象者の言い分を聞くことで、無用なトラブル(裁判など)に発展することを防止する意味もあります。

弁明の機会は、必ず与えないといけないのか?

就業規則に規定がある場合

この場合、弁明の機会を与えないといけない

就業規則上、「(懲戒処分を行うためには)弁明の機会を与えなければならない。」と規定されている場合には、弁明の機会を設けることが必須です。もし弁明の機会を与えていないと、その懲戒処分は就業規則に違反していることとなり、当該処分そのものが無効となってしまいます。
このような主張は、後日、裁判(労働審判)になった場合、従業員側から主張されることが多くあります。このため、懲戒処分を実施する場合には、就業規則上、弁明の機会を与えることが必須であるか否かの確認が必要です。

弁明の機会を与える時期(通告時に聞けばよいのか?)

弁明の機会は、懲戒処分に先立って付与するものです。このため、懲戒処分の通告時に本人の言い分を聞いたとしても、それでは弁明の機会を与えたとはいえないので、ご注意ください。また、懲戒処分の通告前に弁明の機会を与えたとしても、懲戒処分通告と同じ日時・場所に実施すると、「弁明の機会を与えられなかった。」と主張される虞があります。
そこで、「弁明の機会を与えること」と「懲戒処分の通告」は別個に行うべきといえます。

弁明の機会を与える時期(事情聴取時に聞けばよいのか?)

事情聴取の際、事実上、本人の言い分を聞くことがあります。ただ、この場合も、後日、「事情聴取は受けたが弁明の機会は与えられなかった。」と主張される虞があります。このため、無用な紛争を回避するためにも、就業規則上、弁明の機会の付与が要求される場合には、「事情聴取」と「弁明の機会を与えること」についても別個に行うべきといえます。

就業規則に規定がない場合

この場合、弁明の機会を与えないといけないわけではない

以上に対し、就業規則上、「(懲戒処分を行うためには)弁明の機会を与えなければならない。」という規定がない場合、弁明の機会を与えていないからといって、そのことが理由で懲戒処分が無効となることはありません。

そうであっても弁明の機会を与えた方がよい理由

もっとも、懲戒解雇や降格処分など、重い処分を考えている場合には、就業規則上、弁明の機会を付与することが要求されていないとしても、弁明の機会を与えておくべきです。

これは、重い処分を与える場合には、就業規則に規定がなくても弁明の機会を与えるべきとする見解があるため、後日、裁判等になった場合、相手方弁護士から、このような主張を受ける可能性があります。また、弁明の機会を与えることは、前述した「ガス抜き」としての効果が期待できることも理由です。

その他の注意点(書面で通知しておくこと)

裁判や労働審判で、「弁明の機会を与えた/与えていない」が争点となることは、少なからずあります。

このような場合に備えて、対象者には、弁明の機会を与える旨の書面を交付しておくことは有益です。同書面には、問題行動の概要を記載した上で、これに対する弁明の機会を与えること(その日時)を明記しておいてください。懲戒解雇など、後日、紛争となる可能性が高いケースでは、このような慎重な対応が必要です。

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パワハラを理由とする懲戒処分の注意点

2023-03-25

パワハラ問題が発生した場合、企業秩序を維持するため、加害者を処分(懲戒処分)することが考えられます。今回は、パワハラの加害者に対する懲戒処分の程度について説明します。

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注意指導が行き過ぎたケース

 注意指導が行き過ぎたケースは、その方法(過剰な叱責など)に問題はあるものの、注意指導しなければならない場合であり、業務上の必要性は一応あったといえます。この場合、行為態様・行為期間を総合して、厳重注意や軽い懲戒処分(戒告、減給など)の中から選択することになります。また、注意指導が行き過ぎたケースであっても、過剰ないし執拗な注意指導によって被害者が精神疾患に陥った場合には、より重い懲戒処分を検討することになります。
 なお、加害者が管理職の立場にあり、同種行為を繰り返す場合には、人事権行使としての降格(降職)を検討することになります。

業務上の必要性のないパワハラ(職場いじめなど)

 業務上の必要性のないパワハラは、悪質性が高いといえます。このような場合には、行為態様、行為期間や被害態様等を勘案した上で、減給や停職を検討することになります。

刑事事件(傷害事件など)に該当するようなパワハラ  

 業務上の必要性の有無にかかわらず、その行為態様が刑事事件に該当する場合には、再発防止の観点から厳しい態度で臨む必要があります。この場合、行為態様や被害状況(被害者の負傷程度など)によっては懲戒解雇も検討することになります。

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パワハラの判断基準(簡易版)

2023-03-19

問題を起こした従業員(部下)を注意したところ、「パワハラです。」と言われてしまった、という相談を受けることがあります。
今回は、どのような場合にパワハラ(パワーハラスメント)となり得るか、簡単な判断基準を説明します。

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業務上の必要性の有無

まず、その注意指導に業務上の必要性があるか否かが問題となります。

例えば、勤務態度が不良である、仕事でミスをした場合など。
このような場合、同様の行為に及ばないよう、会社(上司)は従業員を注意指導する必要があります。このような注意指導は、「業務上の必要性」があるため、注意指導したからといって、ただちにパワハラに該当するわけではありません。

注意指導の態様

注意指導に「業務上の必要性」がある場合、その態様(言い方・頻度など)が問題となります。

例えば、小さなミスについて過剰に叱責する、問題を起こした従業員の人格を否定するような言動に及ぶことは、正当な注意指導の範ちゅうを超え、パワハラに該当する可能性があります。もっとも、例えば工場での仕事の場合、小さなミスが重大な事故につながる恐れがあり、小さなミスに対して強く叱責したからといって、全てがパワハラに該当するわけではないと考えます(私見)。
なお、「強い叱責」と「感情的になって強く怒鳴りつけること」は違いますので、ご注意ください。

パワハラ該当性の判断図(簡易版)

以下は、パワハラに該当するか否かを簡単にまとめたチャート図(簡易版)です。従業員を注意指導するとき、従業員(部下)からパワハラの申告受けたときのご参考となればと思います。

パワハラに該当するといっても、
 ① 不適切レベル
 ② 違法(民事)レベル
 ③ 違法(刑事)レベル

など、いろいろなレベルがあります。

いずれに該当するかは、個別具体的な判断を要します。注意指導についてパワハラであるとの申告を受けた場合には、弁護士にご相談されることをお勧めします。

パワハラ予防に必要な視点

注意指導の目的は、従業員に対し、今度、同じミスを繰り返させない点にあります。従業員を頭ごなしに叱りつけることは、反省を促すどころか、かえって反発を招く危険があります。
従業員も、失敗したくて仕事をしているわけではありません。真面目に働いていても、ミス(間違い)が生じることはあります。ミスの原因を確認・聴取することなく、結果だけを見て、従業員を強く責めることは、パワハラトラブルの原因となり得るところです。
無用なトラブルを回避するためには、従業員が問題を起こした原因を確認すること、注意指導する際には理由(特に、このままの状態で放置すると、どのような問題が生じるか)も告げることも必要でしょう。

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団体交渉は、録音した方がよいでしょうか?

2022-08-26

Q.はじめて団体交渉に参加することになりました。後日、「言った・言わない」の水掛け論を避けるため、団体交渉のやりとりは録音した方がよいでしょうか?

A.団体交渉のやりとりは、労働組合側は録音するのが通常です。会社側も録音しておくとよいでしょう。

団体交渉は、団交事項について労使双方がお互いの意見を述べるため、途中で議論が脱線したり、解雇の有効性について協議している途中で在職中の残業代請求に議論が移ってしまう等、議論が錯綜することも多くあります。
このためメモだけでは団体交渉の経過・内容を正しく記録できない可能性があるため、団体交渉の内容を録音しておくことは有用です。また、多くの団体交渉では、労働組合は団体交渉の内容を録音しています。
後日、「言った・言わない」の紛争を回避するためにも、会社側も団体交渉を録音し、証拠保全しておくことは必要な措置といえます。

団体交渉には、社長が出席しないといけないのでしょうか?

2022-08-25

Q.団体交渉の席上、組合側から社長を参加させろと強く要求されています。社長は団体交渉に参加しないといけないのでしょうか?

A.必ずしも社長に参加してもらう必要はないといえます。

必ずしも社長に参加してもらう必要はありません。もっとも、組合側から不誠実団交(誠実交渉義務違反:不当労働行為)と言われないようにするために、団体交渉に臨む際、会社側担当者は、あらかじめ決裁権限の枠をもらっておく必要はあります。

組合が指定した団体交渉の場所に応じないといけないか?

2022-08-24

Q.団体交渉申入書には、団体交渉の場所として、当社の会議室が指定されていました。このような場所の指定に応じないといけないのでしょうか?

A.必ずしも場所の指定にも応じる必要はありません。

「団体交渉は、会社の事務所で行わなければならない。」という法律上の規定があるわけではありません。また、団体交渉申入書は、労働組合(労働者)側の要求を記載したものであり、先方が要求する団体交渉の開催場所について、会社が応じなければならないわけではありません。

団体交渉の開催場所についても、労使双方で協議・決定するものであるため、会社として適切な開催場所を検討し、先方に提案するのがよいでしょう(なお、労使双方にとって交通アクセスのよい貸会議室を利用するケースもあります。)。

組合が指定した団体交渉の日時に応じないといけないか?

2022-08-23

Q.団体交渉申入書が届き、驚いて読んでみると、団体交渉の日時が1週間後と指定されていました。しかし、これでは当社の準備が到底間に合いません。労働組合が指定した日時に団体交渉に応じないといけないのでしょうか?

A.必ずしも労働組合が指定した日時に応じる必要はありません。

団体交渉申入書には、労働組合(労働者)側の言い分が記載されており、その内容を確認する必要があります。また、会社側の言い分を整理・検討するための準備も必要です。会社として、誠実に団体交渉に応じるためには、このような準備が不可欠です。

そして、そのような準備に必要な期間であれば、労働組合が開催日の延期に応じる可能性も高いと考えます(あまりに長い準備期間を主張すると、「不当な先延ばし」と言われるため、ご注意ください。)。

なお、団体交渉の準備には時間がかかるため、団体交渉申入書が届いたら、速やかに弁護士に相談する等の対応が必要です。

Q&A 従業員が退職しているにもかかわらず、団体交渉に応じないといけないでしょうか?

2022-08-22

Q.退職したはずの従業員が加入したとのことで、合同労組から団体交渉申入書が送られてきました。その従業員は,すでに当社を退職しているので、団体交渉に応じる必要はないのではないでしょうか?

A.団体交渉として、解雇・退職の無効を争う場合、あるいは、在職時における未払賃金(残業代)の請求等に関する場合には、団体交渉に応じる必要があります。

Q&A 団体交渉の代わりに、書類のやりとりで済ませられないでしょうか?

2022-08-20

Q.会ったことのない人たちと直接会って交渉するのではなく、書類のやりとりだけで済ませたいと思います。書類のやりとりも「交渉」なので、団体交渉に応じていることになりませんか?

A.組合側が対面による交渉を要求している場合には、これに応じる必要があります。これを拒絶することは、「団体交渉拒否」に該当すると考えられます。

Q&A 団体交渉ではなく、従業員との直接交渉で解決できないでしょうか?

2022-08-19

Q.聞いたことのない労働組合と団体交渉するよりも、従業員個人と話し合って解決した方がよいのではないでしょうか?

A.団体交渉の申入れがあるにもかかわらず、従業員個人と直接話し合おうとすることは、不当労働行為である「団体交渉拒否」や「支配介入」に該当します。このため会社は、労働組合と団体交渉する必要があります。

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