労災事故が発生し、被災者(従業員)が労災認定された。この場合、会社は、被災者から安全配慮義務に違反したとして、損害賠償請求を受けることがあります。今回は、そのような請求を受けた場合に、まずは会社が行うべきことについて、ご説明します。
1 労災事故を理由とする損害賠償請求
労災事故が発生し、被災者が労災認定された。この場合、会社は、被災者から、労災保険給付では補償されなかった損害について、多額の損害賠償請求を受けることがあります。
この場合、どのように対応すればよいでしょうか。
2 まずは、弁護士に相談すること
被災者(実際は、その代理人弁護士)から損害賠償請求の書類が届いたら、まずは弁護士に相談してください。その際、労基署に提出した労働者死傷病報告や労災申請の関係で提出した書類の控えがあれば、それを持参してください。また、社内で労災事故を調査していれば、それらの資料も持参してください。
これらの資料があれば、相談を受けた弁護士は、事故状況、被災者の怪我の程度など、事案の概要を把握できます。例えば、後遺障害が残存したとして、逸失利益や後遺障害慰謝料の請求があった場合、認定された後遺障害の内容・程度によって、これらの損害(逸失利益・後遺障害慰謝料)の概算額を計算して、請求額の妥当性を検証することが可能となります。
3 事故状況の把握
事故状況は、被災者にも過失があったといえるかを検討する材料となります。例えば、被災者が構内ルールを守らなかった結果、事故に遭ったのであれば、被災者の過失を問える可能性があります。この場合、過失相殺の主張(被災者の過失分は自己負担すべきとの主張)が可能となります。
仮に、過失相殺の主張ができるのであれば、これにより、賠償額の圧縮を図ることが可能です。例えば、被災者の過失割合が20%の場合、総損害の20%を控除できることになります(総損害が1000万円の場合、そこから200万円を控除できることになります。)。
被災者は、過失相殺をしないで損害賠償請求することが多数あります。しかし、実際は、過失相殺できる場合もありますので、事故状況に関する資料は非常に重要です。
4 怪我の程度の確認
被災者の怪我の程度(特に、事故当初の怪我)の程度を確認することも重要です。例えば、軽傷事案(打撲など)であるにもかかわらず、休業期間が長期化していた場合、被災者が請求する休業損害は過大であり、その全てを賠償する必要はないと主張できる可能性があります。また、怪我と比べて休業期間が長いと思われる場合には、労災事故による怪我だけでなく、別の要因も相まって長期化したのではないかと考えることもできます。
後遺障害が残存した場合には、当初の怪我と認定された後遺障害との間に整合性があるかも重要なポイントです。労災事故による怪我と既往症(事故前からの持病など)が相まって後遺障害が残った場合には、後遺障害に関する損害(逸失利益、後遺障害慰謝料)について、一定割合の減額主張が可能となる場合もあります。この点については、過去の裁判例を参考に、① 減額できるか否か、② 減額できるとして、どれくらい減額できるか、を検討することになります。
これらについては、「労災に関する知識」のみならず、「損害賠償の裁判実務に関する知識・経験」が必要な分野です。
5 まとめ
今回は、会社が被災者から損害賠償請求を受けた場合に、まずは行うべきことをご説明しました。 多額の損害賠償請求の書類を受け取ると、驚きのあまり、何をすればよいか分からず、途方に暮れるかもしれません。でも、皆さんの会社の味方となってくれる人は必ずいます。今回のブログを参考に、やるべきことを一つずつ実行してください。
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