「問題社員を何とかしたい。」と考えた場合。
問題社員に注意・指導を繰り返しても改善しないため、解雇することを考えたとします。
「問題行動や注意・指導に関する証拠は集まった。あとは、解雇するだけ。」このような状況であっても、解雇を通告する前に、まずは「退職勧奨」するのがよいと考えます。今回は、「解雇」に潜むリスクについて、ご説明います。
このページの目次
解雇に関する証拠の収集
① 問題行動を繰り返す社員に対し、注意・指導を繰り返す。
② その際、業務命令書や注意指導書を発行し、場合によっては懲戒処分を行うなど、注意指導に関する資料(証拠)を残しておく。
解雇権を行使するにあたり、会社による解雇が有効であることを裏付ける証拠を積み上げておくことは重要です。
これらが十分に集まっていない状態で解雇すると、裁判で争われた場合、解雇無効と判断されるリスクが非常に高くなります。
解雇に潜むリスク
それでは、解雇に関する証拠が積み上がった場合、解雇権を行使しても全く問題ないでしょうか。
この点については、解雇に潜む次のリスクから、やはり解雇権行使には慎重であるべきと考えます。
裁判所が判断するリスク
会社による解雇が有効であるかについて、裁判で争われた場合、解雇の有効性は裁判所が判断することになります。実は、裁判所が解雇の有効性を判断することは、それ自体、非常に大きなリスクといえます。
裁判所は、法律に基づいて、解雇の有効性を判断します。そして、その法律(労働契約法16条)は、解雇の要件として、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当であること」を要求しています。
しかし、これらの要件は曖昧であり、どのような場合に、「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当である」といえるか判然としません。すなわち、判断する人によって、結論は変わり得るのです(例えば、解雇の有効性については、地方裁判所と高等裁判所で判断が異なるケースは、少なからずあります。)。
このため、会社が証拠十分と判断して解雇しても、裁判で争われた場合には、解雇無効と判断されるリスクは常にあります。
無用な紛争に巻き込まれるリスク
解雇の場合には、解雇が無効であったとの理由で、社員から訴訟提起されるリスクは非常に高くなります。
この場合、会社は、その訴訟に対応せざるを得ず、時間とお金(弁護士費用)を費やすこととなります。しかも、事案によっては、その社員が所属していた部署の別の社員に協力してもらう必要があり、会社の機会損失は大きいといえます。
退職勧奨を検討することの重要性
これらのリスクを考慮すると、解雇権を行使する前に、退職勧奨することがよいと考えます。
退職勧奨に応じてもらい、当該社員から退職届を提出してもらえれば、「解雇」ではなく「自主退職」となります。「自主退職」で処理できた場合には、「解雇」の場合より、後日、社員側から訴えられる可能性は低くなるといえます。しかも、裁判となった場合でも、「解雇」よりも「自主退職」の方が、有効性の立証に関する会社側の負担は少ないといえます。
さらに、問題社員が退職勧奨に応じず、会社が解雇せざるを得なかった場合であっても、このような手続を踏んだ点は、裁判となった場合には、会社側に有利な事情として考慮されると考えます。
以上の理由から、問題行動を繰り返す社員であっても、解雇を通告する前に、退職勧奨を行うのがよいといえます。
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