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労働審判期日(第1回期日)の実際【会社向け】
今回は、実際の労働審判期日について、ご説明します。
参加者
裁判所:労働審判官1名(裁判官)、労働審判員2名(使用者側・労働者側)
申立人:申立人(本人)、申立人代理人(弁護士)
相手方:会社担当者(社長・人事担当者など)、関係者(上司、同僚など)、相手方代理人(弁護士)
会社の立場で言いますと、「関係者(上司、同僚など」の参加は必須です。
関係者が参加しないと、客観的証拠がない限り、事実関係に関する会社側の主張を裁判所に認めてもらうことはできません。実務を経験すると、「客観的証拠」と言っても、「誰が見ても会社の言い分が証明される明白な証拠」というものはほとんどなく、提出した証拠(書類、メールなど)について、作成目的・作成経緯・作成前後の状況など、裁判所からの確認があると考えてください。
また、労働事件は、労使間のトラブルが数か月(場合によっては数年単位)で続いてきたケースが大半です。そして、長期にわたる事実経過の中で、「客観的証拠」(書類・メールなど)が全て揃っているケースは稀です。このため、関係者による事実関係の説明が不可欠です。
さらに、労働審判期日には、申立人(労働者)が参加して、自らの言い分を裁判所へ直接説明します。しかし、その説明の中には、会社からみると「事実とは認め難い」内容もあります。そのような場合に、キチンと反論するためには、その件に直接関与していた人物(=上司・同僚などの関係者)が労働審判期日に出席し、会社側の言い分をしっかりと裁判所へ伝える必要があります。
事実関係の確認
裁判所は、あらかじめ「労働審判申立書」と「答弁書」をよく読んだうえで期日に臨んでいます。このため、裁判所からは、双方が主張する事実関係について、申立人・相手方双方に対し、かなり突っ込んだ質問があります。
例えば、以下のような質問です。
「ここに○○と書いてありますが、具体的にはどのようなことがあったのですか?」
「甲○号証(証拠)には、『△△』と書いてありますが、これはどういう意味ですか?」
「(証拠を示しながら)どうしてこのような書類を作成したのですか?」
「(関係者に対し)先ほど、申立人が『××』と言っていましたが、そのような事実はありましたか?」
など、「答弁書に書いていないこと」や「答弁書では、はっきりしないこと」を中心に質問されると考えてください。また、提出した証拠の内容についても質問されると考えておいてください。
以上の質問は、関係者本人でないと回答できません(人事担当者は「当事者からの伝聞」が多く、しかも、細かい点まで把握できていないことから、しっかると回答できない可能性があります。)。
さらに、裁判所は、関係した当事者本人に質問し、その回答を求める傾向が強いといえます。
当事者本人であっても回答に窮する場合があり、たまに代理人が助け舟を出すこともありますが、基本的には関係者本人が回答しなければなりません。
したがって、期日当日は、関係者(上司、同僚など)の出席が不可欠です。
そして、ここでキチンと説明・回答できるか否かが結論に大きな影響を与えます。
なお、このような事実関係の質問は、申立人と相手方の双方に行われます。
事案にもよりますが、争点が多岐にわたる場合(懲戒解雇の事案で、労働者の問題行動が多い場合など)は、それぞれ1時間前後(場合によっては、それ以上)の時間がかかると思ってください。
和解に向けた協議
双方からの事実関係の聴取が終わると、和解に向けた協議が行われます。
労働審判は、調停による解決(和解)を前提とした手続であるため、このような協議の席が設けられます。
事実関係の確認は、当事者(申立人・相手方)が同席した状態で行われますが、和解に向けた協議は、申立人と相手方が別々に裁判所と話します。
和解に向けた協議の席では、裁判所から和解解決に向けた考えについて質問されます。
このため、労働審判期日に先立ち、和解する場合の条件(解決金の金額など)について、社内や弁護士との間で協議しておく必要があります。
このとき、裁判所から事案に関する裁判所の考え(心証)が開示され、裁判所が妥当と考える和解案が提示されることになります(申立人の希望が伝えられることもあります。)。これに対し、会社側として、「譲歩できるところ・できないところ」を明らかにして、譲歩できるところは「どこまで譲歩できるか」を裁判所に示します。
このような裁判所とのやりとりを申立人・相手方がそれぞれ行い、和解解決による解決の可能性を探ることとなります。
なお、労働審判の場合、第1回期日で和解できるケースも多いため(裁判所もそのようなスタンスで当事者に対応します。)、可能であれば決裁者の同席が望ましいと言えます(同席が困難である場合には、決裁者と連絡がとれる状態にしておく必要があります。)
その場で即答できない場合は、第2回期日を入れることになります(なお、第2回期日以降は、和解に向けた協議が中心です。)。
最後に
労働審判期日の実際は、以上のとおりです。
「裁判」というと、弁護士が活躍するイメージがありますが、労働審判期日の主役は当事者(申立人本人・上司や同僚などの関係者)です。
「答弁書に書いてもらったから大丈夫」と考えてはいけません。
しっかりと準備して、期日当日に臨んでください。
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労働審判で会社が準備すべきこと【会社向け】
労働審判は、原則として3回以内の期日で審理を終結することになっています。もっとも、ほとんどのケースでは、第1回期日の段階で、裁判所が具体的和解案を提示します。このため、労働審判は「第1回期日が勝負」です。したがって、従業員から労働審判を申し立てられた場合、会社は、直ちに対応準備に取り掛からないといけません。
今回は、労働審判を申し立てられた場合の会社の初動対応について、ご説明します。
事実関係の整理(時系列にまとめる。)
労働審判を申し立てられた場合、会社だけで対応することは事実上不可能です。弁護士に依頼して、会社の言い分を裁判所にきちんと伝える必要があります。そして、そのためには、まずは弁護士に、事実関係を正確に伝えなければなりません。
これまでの経験上、弁護士に事実関係を正確に伝えるためには、次の点に注意していただくのがよいと思います。
まずは、労働審判申立書を読んでください。そして、従業員が何を要求しているかを確認してください。また、労働審判申立書には、申立てに至る事実経緯が記載されています。これに対し、会社側の言い分を時系列に沿って作成してください(簡単なもので構いません。)。
事件の類型によって、重要となる証拠・ポイントは、次のとおりです。
① 退職が争われるケース(不当解雇)
退職時に本人が提出した書面があるかを確認するとともに(退職届など)、関係者(上司、同僚など)から退職に至る経緯を聴取してください。なお、退職に至る過程でメールのやりとりをしている場合も多いので、メールも確認してください。
② パワハラが争われるケース
通常であれば、労働審判を申し立てられる前に、従業員(申立人)からパワハラ被害に関する申告があったはずです。そのときの調査結果を確認するとともに、労働審判申立書に記載された内容を踏まえ、再度、関係者に聴取してください。
③ 残業代請求の場合
労働時間に関する資料(勤怠記録など)を確認するとともに、給与計算の内容について社会保険労務士(社労士)に確認してください(給与計算を社労士に依頼している場合)。
なお、早い時点で弁護士に委任することができた場合には、関係者への聴取の際、弁護士にも同席してもらいましょう。そうすることで、準備と時間が節約できます。
速やかに弁護士へ相談・依頼すること
労働審判申立書に対する反論書の提出期限は、日程がタイトです。そこで、上記の調査と並行して、弁護士に相談し、速やかに依頼してください。
労働審判は裁判に準じた手続であり、専門的な知識・経験がないと対応できません。「自社で何とかなるだろう。」と考えてはいけません。
依頼する弁護士が見つかった場合には、早急に弁護士と打合せを行ってください。このとき、事実関係を時系列に沿って整理していると、弁護士もスピーディーに事案を理解することができます。また、労働審判では、会社側の証人として関係者(上司や同僚など)が同行し、裁判所に事実関係を説明する必要があります。会社側証人を決めるためにも、弁護士との打合せはただちに実施する必要があります。
最後に
労働審判を申し立てられた場合の初動対応についてご説明しました。この手続は、「第1回期日が勝負」です(第1回期日で裁判所から和解案が提示されるケースが大半です。)。そこで、裁判所から労働審判申立書が届いたら、速やかに対応することが重要です。
加藤労務法律事務所は、これまで会社側代理人として多数の労働審判事件を取り扱っており(解雇事件・内定取消事件など)、ポイントを押さえた準備・書面作成・期日対応を行います。労働審判を申し立てられた企業様は、加藤労務法律事務所へご相談ください。
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会社側からみた労働審判手続の実際【会社向け】
例えば、解雇問題や残業代請求等で、労働者から労働審判を申し立てられたとします。ほとんどの会社は、労働審判を申し立てられたことがないため、実際に、どのような流れで進むかイメージできないと思います。
今回は、そのような会社の皆様に対し、労働審判が申し立てられた場合の実際の手続等について、ご説明します。
1 労働審判とは
労働審判とは、解雇問題や残業代請求などの労使間のトラブルについて、迅速に解決するための手続です。
次の点が特徴です。
① 裁判の場合、裁判官が審理しますが、労働審判の場合、裁判官(労働審判官)のほか労働審判員2名が手続に関与します(その結果、3名で審理することになります。)。
労働審判員は、裁判官ではなく、企業の人事労務や組合活動に携わっていた等、労働問題に関する知識や経験を有する人が任命されます。これらの人々が関与することで、実情に即した解決を図ろうとする趣旨です。
② 労働審判は、原則として3回以内の期日で審理を終結することになっています。もっとも、ほとんどのケースでは、第1回期日の段階で、裁判所が和解案を提示します。このため、労働審判は「第1回期日が勝負」という側面が非常に強い手続です。
③ 労働審判は、裁判所・申立人・相手方が同じテーブルに座り、手続が進行します。裁判所から当事者への質問が多く、当事者は、これらに回答する必要があります。そこで、当事者(関係者)として参加する場合、いろいろな質問が出てくると覚悟して、労働審判期日に臨む必要があります。
2 労働審判の準備
労働審判の準備は大変です。前述しましたとおり、労働審判は、「第1回期日が勝負」であるため、第1回期日に向けて、しっかりと準備する必要があります。
具体的には、当方に非がない旨の言い分(主張)を整理し、その主張に沿った証拠を提出しなければなりません。しかも、書類等の提出期限は、労働審判の書類が届いてから約1か月後であることが多く、日程もタイトです。そこで、労働審判の申立てがあったら、速やかに準備を進める必要があります。
労働審判は、裁判所が法律に基づいて争点(不当解雇であるか、残業代があるか等)を審理します。このため、会社は、「会社の対応は、法的に問題がなかったこと」について、証拠に基づいた主張を行う必要がありますが、このような準備は、事実上、弁護士でなければ行うことができません。
そこで、労働審判の申立てを受けた場合には、資料(証拠)を集めるとともに、速やかに弁護士を探してください。そして、依頼する弁護士が見つかった場合には、早急に弁護士と打合せを行ってください。このとき、会社側で時系列に沿って整理していると、弁護士もスピーディーに事案を理解することができます。
また、労働審判の場合、当該事案の関係者(同僚や上司など)にも労働審判期日に出頭してもらう必要があります。そこで、弁護士と関係者との打合せの日程も確保してください(通常は、事実関係の聴取は何度か行うことになります。)。
3 労働審判期日
事前に主張書面や証拠を提出していても、労働審判期日には、裁判所から事実関係に関する質問があります。そこで、労働審判期日には、関係者も必ず同席してください。関係者が同席しない場合には、申立人側の「言いたい放題」になってしまう危険があるので、ご注意ください。
審判期日は、おおむね2時間を予定してください(なお、和解成立の見込みがある場合には、延長する可能性もあります。)。当日は、裁判所の質問が1~1.5時間くらいあります。そして、質問が一通り終わった時点で、和解に向けた話し合いに移行します。
和解に向けた話し合いでは、申立人と相手方は別々に話を聞かれることになります。このとき、裁判所から、心証が開示されるとともに和解案が提示されます。
労働審判の場合、第1回期日で和解が成立するケースが多くあるため、当日、決裁権者が同行できない場合には、連絡がとれるようにしておいてください。
4 最後に
労働審判手続の実際をご説明しました。繰り返しとなりますが、この手続は、「第1回期日が勝負」です。このため、裁判所から労働審判に関する書類が届いたら、速やかに弁護士に相談し、委任することが重要です。
労働審判を申し立てられてお困りの企業様は、弁護士加藤大喜までご相談ください。
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