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休職中に育児休業を取得できるか?
休職中の男性従業員から、育児休業の申出がありました。育児休業とは、仕事を休んで子育てに専念してもらうための制度であり、休職中の従業員に認める必要はないのではないかと思います。休職中の従業員からの育児休業の申出を拒否することはできるのでしょうか?
結論から述べますと、休職中であることを理由に育児休業の申出を拒否することはできないと思われます。
育児休業は、1歳未満の子を養育する労働者であれば取得することができます。労使協定によって育児休業を認めない従業員を定めることができますが、法律上、そのような従業員は、①雇用された期間が1年に満たない者、②育児休業の申出日から1年以内に雇用契約が終了することが明らかな者、③1週間の所定労働日数が2日以下の者に限定されています。このため、休職中の従業員を育児休業の対象外とすることは認められていません。
したがって、たとえ従業員が休職中であったとしても、育児休業の申出があれば、これを会社が拒否することはできないと考えます。
なお、育児休業と休職は別の制度であるため、育児休業期間中も休職期間は進行することになります。このため、育児休業期間中に休職期間の満了日を迎えるケースも想定できます。
もっとも、育児休業期間中に休職期間が満了しても、育児休業期間中は労働義務がないので、その従業員に対し、休職期間が満了したことを理由に復職を命じることはできません。よって、休職期間満了時に復職していないとして、その従業員を解雇(退職扱い)することはできません。
このような場合、休職期間満了時に復職の可否を検討し、復職不可と判断した場合には、育児休業期間が終了した時点で解雇(退職扱い)とすることも考えられます。
育児休業と休職が別の制度であることを踏まえると、このような対応が違法と評価されることはないと思われますが、対象となる従業員の反発を招き、トラブルとなる虞があります。そこで、このような場合には、休職期間の終期を「育児休業が終了した時点」まで延長し、その時点で復職の可否を判断し、その従業員の処遇を決定することも検討すべきと考えます。
もっとも、このような結論は、他の休職者との公平に反するように思われます。この点については、育児休業期間が終了するまで休業期間を延長することは、育児休業を取得したことに伴うものであり、育児休業が法律上の制度であることを踏まえると、これにより他の休職者との間に差異が生じたとしても、一定の合理的理由があるといえるのではないかと考えます(とはいえ、非常に悩ましい問題です。)。
育児休業や休職の運用でお困りの企業様は、加藤労務法律事務所へご相談ください(法律相談料は、1時間あたり33,000円(消費税を含む)です。)。
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資格取得費用の返還請求
当社には、資格取得を希望する従業員に対し、その取得費用を会社が負担する制度があります。もっとも、資格取得後、すぐに辞められては困るので、3年以内に退職した場合には、会社が負担した費用を返還してもらうことになっています。先日、この制度を利用した従業員から退職の申出がありました。資格取得後、数か月しか経過していなかったため、資格取得費用の返還を求めたところ、その従業員から、労働基準法に違反していると言われました。そのようなことはあるのでしょうか?
従業員のモチベーションアップを図るため、資格取得を奨励し、その費用を負担しようとする会社が増えています。その一方で、上記のような問題で困っている会社もあります。そこで、今回は、資格取得費用の返還について説明します。
従業員に対する資格取得費用の返還請求では、労働基準法16条に違反するか否かが問題となります。
労働基準法16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
過去の裁判例を分析しますと、「会社による資格取得費用の負担が、従業員に対する貸付であり、一定期間労働した場合に返還義務を免除する特約を付したもの」といえる場合、上記のような請求は、労働基準法16条に違反しないと考えられます。
それでは、どのような場合が「会社の労働者に対する貸付」といえるかですが、この点は、① 従業員が自主的に資格取得制度を申請したか、② 取得した資格に汎用性があるか(他社でも活用できるか)がポイントとなります。
従業員が自主的に資格取得制度を申請したか
従業員が自主的に資格取得制度を申請した場合には、従業員は、その自由意思で会社から資格取得費用を借り受けたと評価することができます。これに対し、会社が資格取得を命じた場合、従業員は業務命令に従って資格を取得したことになります。この場合、資格取得費用は会社が負担すべきものであり、たとえ資格取得制度を利用したとしても、その費用につき、会社の労働者に対する貸付とみることは困難といえます。
なお、実務上の注意点として、労働者が自主的に資格取得制度を利用したというためには、資格取得制度を利用するか否かは従業員の自主判断による旨を規程上明記すべきです(そして、実際に、どのような資格を取得するか、どのような専門学校を利用するかは、従業員の選択に委ねることになります。)。また、規程上、資格取得費用の貸付であることも明記しておく必要があります。
資格取得制度を利用するにあたっては、資格取得制度の具体的内容が記載された書面を交付するとともに、貸付額や返還条件が記載された貸付契約書(金銭消費貸借契約書)や誓約書などの書面を取り交わしておくことが必要です。
取得した資格に汎用性があるか
取得した資格に汎用性があり、転職活動で有利となるもの(簿記、運転免許、危険物取扱者など)については、自社の業務遂行に有用な面はありますが、それ以上に、取得した従業員の利益になるといえます。この場合、労働者は、自らの市場価値を高めるために資格取得を目指し、その取得費用を会社から借り受けたと評価される可能性が高いといえます。例えば、運送業における大型車両の免許など、それがないと大型車両の乗務に従事できませんが、同業他社でも活用できる資格であるため、その取得費用は、従業員個人のスキルアップのための費用であり、本来であれば労働者が自己負担すべき性質のものといえるでしょう。
これに対し、他社での有用性が限定的な資格は、実質的にみれば、その会社の業務に従事するために取得するものであり、業務性が高いといえます。そして、そのような資格取得にかかる費用は、社内研修に準じて、会社が負担すべき費用と考えることができます。したがって、その費用を会社から労働者に対する貸付とみることは困難ではないかと思われます(もっとも、実際は、そのような資格は稀であろうと思われます。)。
以上のとおり、従業員が自主的に資格取得制度を利用し、取得した資格に汎用性がある場合、退職時に取得費用の返還を請求しても、労働基準法16条には違反しないと考えられます。
これに対し、会社が従業員に資格取得を命じた場合、取得した資格が他社での有用性が限定的である場合、その取得費用は会社が負担すべきものといえます。これを従業員の退職時に貸付金の返還という形式で請求することは、従業員の退職を契機として、本来であれば同人が負担する必要のない費用を請求するものであり、労働基準法16条に違反すると判断されるものと考えられます。
資格取得制度の設計・運用をお考えの企業様は、加藤労務法律事務所へご相談ください(法律相談料は、1時間あたり33,000円(消費税を含む)です。)。
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中途採用者の解雇(中途採用時の注意点)
人手不足が深刻化している現代。即戦力となることを期待して採用した社員が、期待していた結果を出してくれない・・・。このような場合、能力不足を理由に解雇することは可能でしょうか。
まずは結論ですが、「期待していた結果を出してくれなかった」との理由で中途採用者を解雇することは、原則として難しいと考えます。
就業規則には、解雇事由として「勤務成績が著しく不良であること」が記載されている例が多いかと思います。そして、「期待していた結果を出してくれなかった」というのは、「勤務成績が著しく不良であること」に該当するようにも思われます。
しかし、解雇が認められるためには、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当であること」が要求されます(労働契約法16条)。そして、「期待していた結果を出したか否か」は抽象的であり、人によって評価が分かれてしまいます。このため、裁判になった場合、「客観的に合理的な理由」があるとは認められず、解雇が無効と判断される可能性が高いと考えます。
このような事態を回避するためには、採用時の工夫が必要です。
例えば、採用時、①どのようなスキルや能力を評価して採用するのかを明らかにしておく、②「会社が期待する結果」がどのようなものであるかを提示しておくことが有用です。特に、後日のトラブルを回避するために、「会社が期待する結果」は、定量的なものであることが望ましいでしょう。
また、高い地位や高収入で採用した場合、会社は、その人を「高度なスキルを有するプロフェッショナル」として採用したことが推測できるため、能力不足を理由とする解雇の有効性を補強する材料になるといえます。
なお、実際に解雇するには、解雇が「社会通念上相当であること」も要求されます。このため、「期待していた結果を出してくれなかった」が客観的に証明可能であったとしても、いきなり解雇するのではなく、本人と面談して、改善の機会を与える等の措置を講ずることが必要です。
中途採用や中途採用者の解雇をお考えの企業様は、加藤労務法律事務所へご相談ください(法律相談料は、1時間あたり33,000円(消費税を含む)です。)。
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懲戒処分で問題となる「弁明の機会」について
懲戒処分を行うにあたり、対象者(社員本人)に「弁明の機会」を与えるか、どのようなタイミング・方法(書面・口頭)で「弁明の機会」を付与すればよいかわからないとのご相談を受けます。
懲戒処分の有効性が争われる裁判(労働審判)で、労働者側から「弁明の機会がないまま懲戒処分を受けた。このような懲戒処分は無効である。」と主張されるケースも多くあり、懲戒処分を進めるにあたり、「弁明の機会」は非常に重要となります。
そこで、今回は、弁明の機会の付与について、実務上の注意点を説明します。
懲戒処分の進め方(弁明の機会付与)でお困りの企業様は、加藤労務法律事務所へご相談ください(法律相談料は、1時間あたり33,000円(消費税を含む)です。)。
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弁明の機会とは
そもそも「弁明の機会」とは、いったい何でしょうか?
いつ、何を行えば、「弁明の機会を与えた」といえるのでしょうか?
弁明の機会とは何であるか?
「弁明の機会」とは、懲戒処分に先立ち、対象者(社員本人)から、問題行動に及んだ理由・動機、問題行動を起こしたことに対する現時点での考え(反省など)を聞く機会を設けることです。
簡単にいえば、「問題を起こした本人の言い分を聞く。」ということです。
会社は、対象者の言い分も聞いた上で、①懲戒処分を行うか否か、②(処分するとして)どのような懲戒処分とするかを判断します。
弁明の機会を与える理由は?
どうして弁明の機会を与える必要があるのでしょうか?
これは、懲戒処分の性質にかかわってきます。すなわち、懲戒処分とは、企業秩序を維持するための制裁罰と言われています。実社会における刑罰のようなものです。このような懲戒処分の性質上、その処分内容には相当性が要求されます(労働契約法15条)。
労働契約法15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
会社は、懲戒処分が「社会通念上相当である」というために、問題行動の内容(行為態様、結果の重大性、反復継続性など)のほか、行為に至った動機や反省の有無など、問題行動をめぐる様々な事情を総合した上で、懲戒処分を決定しています。そして、「弁明の機会を通じて明らかとなった本人の言い分も考慮して処分内容を決定すること」は、懲戒処分の相当性を裏付ける事情の一つとなります。
弁明の機会を与える「もう一つの理由」
実務では、対象者に弁明の機会を与え、その言い分を聞くことは、「ガス抜き」としての性質もあります。対象者の言い分を聞くことで、無用なトラブル(裁判など)に発展することを防止する意味もあります。
弁明の機会は、必ず与えないといけないのか?
就業規則に規定がある場合
この場合、弁明の機会を与えないといけない
就業規則上、「(懲戒処分を行うためには)弁明の機会を与えなければならない。」と規定されている場合には、弁明の機会を設けることが必須です。もし弁明の機会を与えていないと、その懲戒処分は就業規則に違反していることとなり、当該処分そのものが無効となってしまいます。
このような主張は、後日、懲戒処分が裁判(労働審判)等で争われた場合、従業員側から主張されることが多いといえます。このため、懲戒処分を実施する場合には、就業規則上、弁明の機会を与えることが要求されているか否かの確認が必要です。
弁明の機会を与える時期(通告時に聞けばよいのか?)
弁明の機会は、懲戒処分に先立って付与するものです。このため、懲戒処分の通告時に本人の言い分を聞いたとしても、それでは弁明の機会を与えたとはいえないので、ご注意ください。また、懲戒処分の通告前に弁明の機会を与えたとしても、懲戒処分通告と同じ日時・場所に実施すると、「弁明の機会を与えられなかった。」と主張される虞があります。
そこで、「弁明の機会を与えること」と「懲戒処分の通告」は別個に行うべきといえます。
弁明の機会を与える時期(事情聴取時に聞けばよいのか?)
事情聴取の際、事実上、本人の言い分を聞くことがあります。ただ、この場合も、後日、「事情聴取は受けたが弁明の機会は与えられなかった。」と主張される虞があります。このため、無用な紛争を回避するためにも、就業規則上、弁明の機会の付与が要求される場合には、「事情聴取」と「弁明の機会を与えること」を別個に行うべきといえます。
就業規則に規定がない場合
この場合、弁明の機会を与えないといけないわけではない
就業規則上、「(懲戒処分を行うためには)弁明の機会を与えなければならない。」との規定がない場合、弁明の機会を与えていないからといって、それを理由に懲戒処分が無効となることはありません。
そうであっても弁明の機会を与えた方がよい理由
懲戒解雇や降格処分など、重い処分を考えている場合には、就業規則上、弁明の機会を付与することが要求されていないとしても、弁明の機会を与えておくべきです。
これは、重い処分を与える場合には、就業規則に規定がなくても弁明の機会を与えるべきとする見解があるため、後日、裁判等になった場合、相手方弁護士から、このような主張を受ける可能性があるからです。また、弁明の機会を与えることは、前述した「ガス抜き」としての効果が期待できることも理由です。
その他の注意点(書面で通知しておくこと)
裁判や労働審判で、「弁明の機会を与えた/与えていない」が争点となることは、少なからずあります。
このような場合に備えて、対象者には、弁明の機会を与える旨の書面(通知書)を交付しておくことは有益です。同書面には、問題行動の概要を記載した上で、これに対する弁明の機会を与えること(その日時)を明記しておいてください。懲戒解雇など、後日、紛争となる可能性が高いケースでは、このような慎重な対応が必要です。
裁判では、証拠の有無が重要です。「本人には、弁明の機会を与えると口頭で伝えた。」では、証拠がないため、会社側の言い分が認められない可能性があります。そのような可能性をなくすためにも、書面の交付は重要です。
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パワハラを理由とする懲戒処分の注意点
パワハラ問題が発生した場合、企業秩序を維持するため、加害者を処分(懲戒処分)することが考えられます。今回は、パワハラの加害者に対する懲戒処分の程度について説明します。
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注意指導が行き過ぎたケース
注意指導が行き過ぎたケースは、その方法(過剰な叱責など)に問題はあるものの、注意指導しなければならない場合であり、業務上の必要性は一応あったといえます。この場合、行為態様・行為期間を総合して、厳重注意や軽い懲戒処分(戒告、減給など)の中から選択することになります。また、注意指導が行き過ぎたケースであっても、過剰ないし執拗な注意指導によって被害者が精神疾患に陥った場合には、より重い懲戒処分を検討することになります。
なお、加害者が管理職の立場にあり、同種行為を繰り返す場合には、人事権行使としての降格(降職)を検討することになります。
業務上の必要性のないパワハラ(職場いじめなど)
業務上の必要性のないパワハラは、悪質性が高いといえます。このような場合には、行為態様、行為期間や被害態様等を勘案した上で、減給や停職を検討することになります。
刑事事件(傷害事件など)に該当するようなパワハラ
業務上の必要性の有無にかかわらず、その行為態様が刑事事件に該当する場合には、再発防止の観点から厳しい態度で臨む必要があります。この場合、行為態様や被害状況(被害者の負傷程度など)によっては懲戒解雇も検討することになります。
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問題を起こした従業員(部下)を注意したところ、「パワハラです。」と言われてしまった、という相談を受けることがあります。
今回は、どのような場合にパワハラ(パワーハラスメント)となり得るか、簡単な判断基準を説明します。
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業務上の必要性の有無
まず、その注意指導に業務上の必要性があるか否かが問題となります。
例えば、勤務態度が不良である、仕事でミスをした場合など。
このような場合、同様の行為に及ばないよう、会社(上司)は従業員を注意指導する必要があります。このような注意指導は、「業務上の必要性」があるため、注意指導したからといって、ただちにパワハラに該当するわけではありません。
注意指導の態様
注意指導に「業務上の必要性」がある場合、その態様(言い方・頻度など)が問題となります。
例えば、小さなミスについて過剰に叱責する、問題を起こした従業員の人格を否定するような言動に及ぶことは、正当な注意指導の範ちゅうを超え、パワハラに該当する可能性があります。もっとも、例えば工場での仕事の場合、小さなミスが重大な事故につながる恐れがあり、小さなミスに対して強く叱責したからといって、全てがパワハラに該当するわけではないと考えます(私見)。
なお、「強い叱責」と「感情的になって強く怒鳴りつけること」は違いますので、ご注意ください。
パワハラ該当性の判断図(簡易版)
以下は、パワハラに該当するか否かを簡単にまとめたチャート図(簡易版)です。従業員を注意指導するとき、従業員(部下)からパワハラの申告受けたときのご参考となればと思います。
パワハラに該当するといっても、
① 不適切レベル
② 違法(民事)レベル
③ 違法(刑事)レベル
など、いろいろなレベルがあります。
いずれに該当するかは、個別具体的な判断を要します。注意指導についてパワハラであるとの申告を受けた場合には、弁護士にご相談されることをお勧めします。
パワハラ予防に必要な視点
注意指導の目的は、従業員に対し、今度、同じミスを繰り返させない点にあります。従業員を頭ごなしに叱りつけることは、反省を促すどころか、かえって反発を招く危険があります。
従業員も、失敗したくて仕事をしているわけではありません。真面目に働いていても、ミス(間違い)が生じることはあります。ミスの原因を確認・聴取することなく、結果だけを見て、従業員を強く責めることは、パワハラトラブルの原因となり得るところです。
無用なトラブルを回避するためには、従業員が問題を起こした原因を確認すること、注意指導する際には理由(特に、このままの状態で放置すると、どのような問題が生じるか)も告げることも必要でしょう。
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団体交渉は、録音した方がよいでしょうか?
Q.はじめて団体交渉に参加することになりました。後日、「言った・言わない」の水掛け論を避けるため、団体交渉のやりとりは録音した方がよいでしょうか?
A.団体交渉のやりとりは、労働組合側は録音するのが通常です。会社側も録音しておくとよいでしょう。
団体交渉は、団交事項について労使双方がお互いの意見を述べるため、途中で議論が脱線したり、解雇の有効性について協議している途中で在職中の残業代請求に議論が移ってしまう等、議論が錯綜することも多くあります。
このためメモだけでは団体交渉の経過・内容を正しく記録できない可能性があるため、団体交渉の内容を録音しておくことは有用です。また、多くの団体交渉では、労働組合は団体交渉の内容を録音しています。
後日、「言った・言わない」の紛争を回避するためにも、会社側も団体交渉を録音し、証拠保全しておくことは必要な措置といえます。
団体交渉には、社長が出席しないといけないのでしょうか?
Q.団体交渉の席上、組合側から社長を参加させろと強く要求されています。社長は団体交渉に参加しないといけないのでしょうか?
A.必ずしも社長が参加する必要はありません。
必ずしも社長が団体交渉に参加する必要はありません。もっとも、組合側から不誠実団交(誠実交渉義務違反:不当労働行為)と言われないようにするために、団体交渉に臨む際、会社側担当者は、あらかじめ決裁権限の枠をもらっておく必要はあります。
組合が指定した団体交渉の場所に応じないといけないか?
Q.団体交渉申入書には、団体交渉の場所として、当社の会議室が指定されていました。このような場所の指定に応じないといけないのでしょうか?
A.開催場所の指定に応じる必要はありません。
団体交渉申入書には、通常、団体交渉の開催場所が記載されています(例えば、「会社事務所」など)。しかし、これは、労働組合(労働者)側の要望を記載したものに過ぎません(ちなみに、「団体交渉は、会社の事務所で行わなければならない。」という法律上の規定があるわけではありません。)。
「団体交渉でやってはいけないこと」とは、団体交渉を拒否することですが、組合が求める場所での団体交渉を拒絶したとしても、合理的根拠のある対案を示していれば、団体交渉を拒否したことにはなりません。
会社において、団体交渉申入書に記載された場所での実施に支障があると判断した場合には、別の場所を提案しても問題ありません(実務では、労使双方にとって交通アクセスのよい貸会議室を利用するケースもあります。)。
労働組合が会社事務所での団体交渉の実施を要求するのに対し、会社側が会社事務所での団体交渉の実施を拒否したとします。その場合、組合側からは、「会社事務所で団体交渉を実施するのが労働者にとっても便利であり、これを拒否することは不誠実であり、違法である。」等と言われるかもしれません。
しかし、これに対しては、「会社事務所以外の場所(貸し会議室など)を指定した上で、終業後の移動時間を考えて、団体交渉の開始時刻を遅めに設定する」など、労働者側に配慮した対案を示すことが有用です。
このような対応であれば、団体交渉を不当に拒絶しているとはいえず、違法と評価されるものではないと考えられます。そして、組合としても、団体交渉によって会社と協議することが目的なので、一定の配慮がなされた対案が示されれば、団体交渉申入書に記載した開催場所に固執する可能性は低いと予想できます。
ただし、労働者の就業場所から余りに離れた場所を指定すると、「事実上、団体交渉を拒否している。」と言われてしまします。そして、この場所以外では団体交渉に応じないとすることは、違法(団体交渉拒否)と判断される可能性があります。このような対応は、「団体交渉でやってはいけないこと」です。ご注意ください。
組合が指定した団体交渉の日時に応じないといけないか?
Q.団体交渉申入書が届き、驚いて読んでみると、団体交渉の日時が1週間後と指定されていました。しかし、これでは当社の準備が到底間に合いません。労働組合が指定した日時に団体交渉に応じないといけないのでしょうか?
A.必ずしも労働組合が指定した日時に応じる必要はありません。
団体交渉申入書には、労働組合(労働者)側の言い分が記載されており、その内容を確認する必要があります。また、会社側の言い分を整理・検討するための準備も必要です。会社として、誠実に団体交渉に応じるためには、このような準備が不可欠です。
そして、そのような準備に必要な期間であれば、労働組合が開催日の延期に応じる可能性も高いと考えます(あまりに長い準備期間を主張すると、「不当な先延ばし」と言われるため、ご注意ください。)。
なお、団体交渉の準備には時間がかかるため、団体交渉申入書が届いたら、速やかに弁護士に相談する等の対応が必要です。
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