懲戒処分を行うにあたり、対象者(社員本人)に「弁明の機会」を与えるか、どのようなタイミング・方法(書面・口頭)で「弁明の機会」を付与すればよいかわからないとのご相談を受けます。
懲戒処分の有効性が争われる裁判(労働審判)で、労働者側から「弁明の機会がないまま懲戒処分を受けた。このような懲戒処分は無効である。」と主張されるケースも多くあり、懲戒処分を進めるにあたり、「弁明の機会」は非常に重要となります。
そこで、今回は、弁明の機会の付与について、実務上の注意点を説明します。
懲戒処分の進め方(弁明の機会付与)でお困りの企業様は、加藤労務法律事務所へご相談ください(法律相談料は、1時間あたり33,000円(消費税を含む)です。)。
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弁明の機会とは
そもそも「弁明の機会」とは、いったい何でしょうか?
いつ、何を行えば、「弁明の機会を与えた」といえるのでしょうか?
弁明の機会とは何であるか?
「弁明の機会」とは、懲戒処分に先立ち、対象者(社員本人)から、問題行動に及んだ理由・動機、問題行動を起こしたことに対する現時点での考え(反省など)を聞く機会を設けることです。
簡単にいえば、「問題を起こした本人の言い分を聞く。」ということです。
会社は、対象者の言い分も聞いた上で、①懲戒処分を行うか否か、②(処分するとして)どのような懲戒処分とするかを判断します。
弁明の機会を与える理由は?
どうして弁明の機会を与える必要があるのでしょうか?
これは、懲戒処分の性質にかかわってきます。すなわち、懲戒処分とは、企業秩序を維持するための制裁罰と言われています。実社会における刑罰のようなものです。このような懲戒処分の性質上、その処分内容には相当性が要求されます(労働契約法15条)。
労働契約法15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
会社は、懲戒処分が「社会通念上相当である」というために、問題行動の内容(行為態様、結果の重大性、反復継続性など)のほか、行為に至った動機や反省の有無など、問題行動をめぐる様々な事情を総合した上で、懲戒処分を決定しています。そして、「弁明の機会を通じて明らかとなった本人の言い分も考慮して処分内容を決定すること」は、懲戒処分の相当性を裏付ける事情の一つとなります。
弁明の機会を与える「もう一つの理由」
実務では、対象者に弁明の機会を与え、その言い分を聞くことは、「ガス抜き」としての性質もあります。対象者の言い分を聞くことで、無用なトラブル(裁判など)に発展することを防止する意味もあります。
弁明の機会は、必ず与えないといけないのか?
就業規則に規定がある場合
この場合、弁明の機会を与えないといけない
就業規則上、「(懲戒処分を行うためには)弁明の機会を与えなければならない。」と規定されている場合には、弁明の機会を設けることが必須です。もし弁明の機会を与えていないと、その懲戒処分は就業規則に違反していることとなり、当該処分そのものが無効となってしまいます。
このような主張は、後日、懲戒処分が裁判(労働審判)等で争われた場合、従業員側から主張されることが多いといえます。このため、懲戒処分を実施する場合には、就業規則上、弁明の機会を与えることが要求されているか否かの確認が必要です。
弁明の機会を与える時期(通告時に聞けばよいのか?)
弁明の機会は、懲戒処分に先立って付与するものです。このため、懲戒処分の通告時に本人の言い分を聞いたとしても、それでは弁明の機会を与えたとはいえないので、ご注意ください。また、懲戒処分の通告前に弁明の機会を与えたとしても、懲戒処分通告と同じ日時・場所に実施すると、「弁明の機会を与えられなかった。」と主張される虞があります。
そこで、「弁明の機会を与えること」と「懲戒処分の通告」は別個に行うべきといえます。
弁明の機会を与える時期(事情聴取時に聞けばよいのか?)
事情聴取の際、事実上、本人の言い分を聞くことがあります。ただ、この場合も、後日、「事情聴取は受けたが弁明の機会は与えられなかった。」と主張される虞があります。このため、無用な紛争を回避するためにも、就業規則上、弁明の機会の付与が要求される場合には、「事情聴取」と「弁明の機会を与えること」を別個に行うべきといえます。
就業規則に規定がない場合
この場合、弁明の機会を与えないといけないわけではない
就業規則上、「(懲戒処分を行うためには)弁明の機会を与えなければならない。」との規定がない場合、弁明の機会を与えていないからといって、それを理由に懲戒処分が無効となることはありません。
そうであっても弁明の機会を与えた方がよい理由
懲戒解雇や降格処分など、重い処分を考えている場合には、就業規則上、弁明の機会を付与することが要求されていないとしても、弁明の機会を与えておくべきです。
これは、重い処分を与える場合には、就業規則に規定がなくても弁明の機会を与えるべきとする見解があるため、後日、裁判等になった場合、相手方弁護士から、このような主張を受ける可能性があるからです。また、弁明の機会を与えることは、前述した「ガス抜き」としての効果が期待できることも理由です。
その他の注意点(書面で通知しておくこと)
裁判や労働審判で、「弁明の機会を与えた/与えていない」が争点となることは、少なからずあります。
このような場合に備えて、対象者には、弁明の機会を与える旨の書面(通知書)を交付しておくことは有益です。同書面には、問題行動の概要を記載した上で、これに対する弁明の機会を与えること(その日時)を明記しておいてください。懲戒解雇など、後日、紛争となる可能性が高いケースでは、このような慎重な対応が必要です。
裁判では、証拠の有無が重要です。「本人には、弁明の機会を与えると口頭で伝えた。」では、証拠がないため、会社側の言い分が認められない可能性があります。そのような可能性をなくすためにも、書面の交付は重要です。
懲戒処分の進め方(弁明の機会付与)でお困りの企業様は、加藤労務法律事務所へご相談ください(法律相談料は、1時間あたり33,000円(消費税を含む)です。)。
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